豊田空間デザイン室

日々のこと
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『第三の男』

updated: 2014年7月11日

 グレアム・グリーン「第三の男」(千夜千冊…第1巻  6.時の連環期)
この作品は映画化を前提に書かれていて、通常の原作があってそれを映画にするのとは逆である。 
この小説の魅力は何よりもウィーンにある。かつてハプスブルグ家の支配する都として優雅さを誇った街、オペレッタやワルツがさかんだった遊蕩の街、ロココ文化の街、クリムトやエゴン・シーレら世紀末芸術を生んだデカダンスの街、あるいはフロイト、マーラー、ヴィットゲンシュタインらを生んだ学問と芸術の街…その華やかなウィーンが、ドイツとともに大戦で敗れ去った。 
そして、廃墟と化した街は米英仏ソの共同管理化に置かれた。この荒廃したウィーンは作者グリーンにとって、映画の舞台にはうってつけの場所だったようだ。 
姿の見えないハリー(第三の男)を追っていく物語は、古都を舞台にした迷宮譚の色合いを帯びていく、、。ウィーンの張り巡らされた地下水道は、人間心理の暗部を象徴しているようだ。  
映画では1949年・冬の寒々としたドナウ河や中央墓地、瓦礫の積み上げられた街の風景が効果を上げ、モノクロの映像は<廃墟という都市の迷宮>を表現主義的な構図を醸し出している。
私が訪れたのは、それから二十数年後の秋も深まった頃、、。もうその面影を追うような情景はなかったが、優美さ、デカダンス、迷宮性を感じつつ、夕景の街を彷徨した