豊田空間デザイン室

日々のこと
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『草枕』

updated: 2009年1月22日

夏目漱石「草枕」(千夜千冊…第1巻  6.時の連環記)

冒頭はあまりに有名な次の文句で始まる 「山路を登りながら、こう考えた。智に働けば角が立つ。情に掉させば流される。維持を通せば窮屈だ。とかく人の世は住みにくい」 智も情も意地も結構だが、その智の使いすぎやその情や意地の詳しすぎでは困る、と言うのが言い分だ。

「草枕は」東京に住む画工の旅の物語だが、この基本構図の背後には、ほかならぬ漱石自身の切実な希求が秘められている。  「夏は閑静で綺麗な田舎へ行って御馳走を食べて白雲を見て本を読んでいたい」という切なる思いだ。 ロンドンから帰った漱石だが、ヨーロッパの芸術至上主義に走らず、日本の「奥」へと行く、その奥への遁世の仕方の文学である。 本当はこんな風に暮らしたかったという原郷をしたためた文章でもあるのだ。