豊田空間デザイン室

住宅

大階段と内路地を彷徨う家

<設計趣旨>

外観は京都ならではの形態から素材まで規制の強い地域(風致地区、特別修景地域)ですので、自然体で「現代的な町家」という形態を意図しました。
京都の歴史的な景観に融合しつつ、これからの街並へと継承し、懐かしさも感じるようなイメージとしています。
内部は気楽に立ち寄れるような感覚の住まいにしたいと考え、玄関とリビングを無くして、多様な使い方が出来る空間を実現しました。
在来の木軸構造を出来るだけ表し、間仕切や建具も最小限にとどめた「素のまま」の家を表現しました。玄関を入ってすぐの大階段は丘を上がるような気分にさせ、階段下は洞窟のような暗がりにこもる感覚をと、ぎりぎりの高さにし、収納、書庫、アトリエ等にしています。空間の「高低」のメリハリを付けることで、家の中に「明」と「暗」をつくりました。南・北のゾーンの中間は東西を貫く街の「内路地」のようになっています。 家全体が緩やかにつながり、「回遊できる空間」、日本家屋のように部屋の用途を限定しない彷徨える家としました。
断熱材はセルロースファイバーを吹込み、床下エアコンや土間クールをベースにし、冬は大型のペレットストーブの輻射熱で心地良く家全体が暖まります。
 <掲載誌>  京都府建築士会:京都だより 2016年5月
       建築知識2021年1月号連載「ちょっとイイ家」絵と文:増田奏氏[第10回]
<TV放送>  毎日放送「住人十色」
       関西テレビ「こだわり拝見!ならではハウス」
       朝日放送「大改造!!劇的ビフォーアフター・アフター」
        BSテレ東「突撃!隣のスゴイ家」
1Fプラン スケッチ2Fプラン スケッチ外観:風致地区、修景地区のため、屋根勾配は3~4.5寸で軒を出し屋根は日本瓦葺き、道路に対して下屋を設けること、外壁やサッシの色なども規制がありました。 その制限のなかで考え、屋根はフラットな瓦でシンプルにし、下屋は長くし外壁は厚さ18mmの杉荒板を黒く塗り、懐かしさもが感じられます。 さらにグレーの縦格子で、モダンな京町家風の外観イメージを表現しました。外観 (夕景):夕方になると、格子から漏れる明かりと控えめにした外部の照明で、懐かしさとともに中へといざなう感じになります。大階段&土間ギャラリー(1):この家には玄関がないですが、土間と長いベンチがあります。土間の床は黒い艶消しのタイル貼り、正面の壁は珪藻土で藁スサ入りの土壁風で10色ほど色見本を作って選定し、塗り方もこだわりました。 正面にある大型のペレットストーブの輻射熱で、真冬でも家中が心地良く暖かくなります。左側は全面に大きくガラスを嵌め込み、筋交も表しのデザインにしています。大階段&土間ギャラリー(2):小さな家ですが、あえて幅270cmの大階段。2階リビングというよりは、家の中に丘を造るという感覚で高さは165cmの9段です。 壁側は本棚にして、階段を昇降しながらふと本を手に取り、段に座って読書をしたり、時にはギャラリーのようにも使えます。また、向かいのベンチに座った人と会話がはずんだりと、色々なことが出来ます。 さらに階段下は大きな収納にもなっています。内路地:西の土間から東へ抜ける内路地。南北のスペースを分けながらも緩衝ゾーンとなっていて、スノコのブリッジが架かっています。 写真の左手には納戸(1)、書庫・書斎、納戸(2)、アトリエの4カ所の躙り口のような開口が続きます。家の広さでなく内路地の長さ、抜け感によってゆとりが生じます。ダイニング:大階段を上がるとダイニングと奥にキッチンが広がります。1Fの階高を下げた分、吹抜の開放感あるスペースで、屋根勾配に合わせた天井面には垂木が連なります。床は36mm厚保のJパネルで床面と裏面が無垢の杉板で構造合板を挟んでいて、1枚で3つの役割があり、1Fとの界床はこれだけで済みます。天井には2個のトップライトを設け、ベンチに横になると空が見えます。キッチンよりダイニングを見るダイニングテーブル&ベンチ:テーブルはタモの無垢板で長さ3,500mm、左側は文房具やスプーンなどを入れるアルミのトレーが12個納まります。 ベンチは長さ4,450mmの杉板を浮造り仕上げしていて、下部にはバルコロール(樹脂製の入れ物)がやはり12個入って収納量もたっぷりです。テーブル・ベンチとも標準より30mm下げることで落ち着けます。椅子も合わせて8~12座れ、また、多目的なワーキングデスクにもなり、ここで過ごす時間が長いです。ブリッジと横格子:南北を分けるゾーンの内路地上にはスノコのブリッジが架かっていて、両サイドは吹抜。 正面は南側のフリースペースの目隠しと通風・採光のため格子を設けてます。左側はロフトへの階段で、暮らしの中に多様な動線とシーンを表現。キッチン:奥行の長い敷地に合わせて、ダイニングテーブルの延長上にあるアイランド型の造作キッチン。 対面キッチンに比べ動線は横へと同じ流れで行き来出来ます。北面からの大きな開口部から明るい自然光が入ってきます。アイランドキッチン:奥行の長い敷地に合わせて、ダイニングテーブルの延長上にあるアイランド型の造作キッチン。 対面キッチンに比べ動線は横へと同じ流れで行き来出来ます。北面からの大きな開口部から明るい自然光が入ってきます。DEN(書斎兼書庫):1Fの書斎兼書庫は天井が低い分、こもる感じで落ちついて読書が出来ます。床は縁無しのグレーの畳で長さが1.5mなので、約2.5畳のスペース。手を伸ばせば、両脇の本棚に直ぐ届きます。正面は床材のJパネルで作ったデスクがあり、掘り炬燵風になっていて、床暖房と脇の吹き出し口からの温風と合わせて足元は暖かいです。 北面の窓からの自然光は読書には向いています。大階段、土間見下ろし路地見返し:和室側から見返すと、玄関土間まで抜ける目線が清々しく、この長さで小さい家を伸びやかに感じさせます。左側は壁厚を利用した文庫本棚で、収納量はかなりあります。内路地見返し(夕景):25mm厚の杉板を目透しで貼り、薄いグレーに塗装して横の流れを強調。4ヶ所の各室への躙り口と板のスキマからの明かりが非日常的なシーンを演出。2Fの開放的な空間に対して、ダーク(アンダーな)で迷宮的なイメージを意図しました。和室フリースペース:窓側はワークデスクと両脇がクロゼット。 右側には目隠し格子の支持壁を兼ねたパイプを5ヶ所設け、奥行は狭いが衣類や掃除用具を吊っています。ロフトからの見下ろし:土間まで見下ろすと、実際以上の長く深い距離が、不思議なスケール感と情景を醸し出します。

  • 建築地:京都市北区
  • 敷地面積:127.8㎡(38.66坪)
  • 床面積:106.02㎡ (32.07 坪)
  • 構造:木造軸組在来工法
  • 規模:2階建
  • 竣工:2014年12月